2025.07.30
快進撃を続ける良品計画。「経営戦略の大転換」を支えたエグゼクティブ人材採用の極意とは

事業を取り巻く環境変化が激しさを増す中で、経営戦略と連動し、変革を起こせるエグゼクティブ人材を求める企業が増加しています。
「無印良品」ブランドを軸にグローバルで事業を展開し、近年の快進撃によって注目を集める株式会社良品計画もそうした1社。その背景には、経営戦略の大転換によって進む、かつてない規模の店舗展開と商品戦略の進化がありました。
同社はどのようにしてエグゼクティブ人材を迎え入れているのでしょうか。人事部門を経て同社の経営企画部を管掌する宝地戸健太氏に、エグゼクティブ人材採用の実践知を伺いました。
宝地戸 健太(ほうちど けんた) 様 KENTA HOCHIDO
株式会社良品計画
執行役員 経営企画部管掌

株式会社良品計画
自社の強みと向き合った新成長戦略で、業績拡大を実現
良品計画様は2024年8月期決算で売上高・利益ともに過去最高となり、2025年8月期の業績予想も上方修正されました。この背景には何があるのでしょうか。
宝地戸氏:2021年7月に中期経営計画を発表し、経営戦略を大きく転換しました。
2021年8月期末の営業収益は4536億円。営業収益の規模は国内小売業の中で30位程度でした。ただ、私たちは「無印良品」という非常に強いブランドを持っており、衣食住全てにまたがる商品を取り扱っています。こうした観点で、当社にはまだ成長の可能性があると考えたのです。
また、創業当時から大切にしてきた「地球資源や自然環境に配慮する」という企業姿勢も時代の価値観と重なってきています。こうした強みを十分に生かしきれていないのではないかという問題意識から、既存の延長線上ではない、新たな成長戦略を模索することに決めました。

新たな成長戦略とは何ですか。
宝地戸氏:方向性は大きく分けて3つあります。
1つ目は店舗出店数を圧倒的に増やすこと。2つ目は店舗の大型化で、従来の250坪平均から 600坪平均へと新規出店時の店舗面積の基準を見直しました。3つ目は、スキンケア商品などお客さまに繰り返し購入していただける商品群の拡充です。これらを柱として顧客接点を広げていきました。
当然ながら、急激な転換には負荷も伴いました。例えば新規出店数の増加や店舗面積の拡大に応じた売上計画や発注数量の予測難易度が上がり、在庫量が過多になるなどの事象も起きました。2023年後半からは人材・組織の体制がようやく整い、成果が見えるようになってきました。2024年8月期末では、営業収益が前年比113%、2025年8月期も第1四半期、第2四半期連続で業績の上方修正を出すなど、当社に大きなインパクトをもたらしています。
2024年8月期までは、国内事業中心に事業拡大をしてきましたが、現在は海外事業においても国内同様の事業拡大をすべく取り組んでいるところです。
商品、IT、物流、店舗開発など、さまざまな領域でエグゼクティブ人材採用を実施
新たな成長戦略を実行に移す中で、エグゼクティブ人材採用にも注力していますね。
宝地戸氏:大きな事業成長を形にしていく上では、既存の体制だけでは対応しきれない局面もありました。
例えば国内の新規出店数は、従前は年間20店舗ほど。この規模であれば大型商業施設などへの新規出店を中心に対応することができました。しかし直近の3年間では約200店舗と、出店数が大幅に増加しています。商業施設への出店だけでは当然追いつかず、独自にロードサイド型店舗を出店するなどの新たなアプローチが必要でした。
それに伴って店舗開発のプロフェッショナルが必要となり、店舗設計なども含めて、戦略的に全体を描ける人材が重要になったのです。

加えて、当社独自のECサイトの開発を担うIT領域や、ECと連動する物流、食品の拡販戦略など、さまざまな部門で高い専門性とともに事業成長実現を目指せる経営観点を有する人材が必要となったのです。
結果的にここ3〜4年で、執行役員や部長クラスの採用が多くなりました。
エグゼクティブ人材採用における人材要件をお聞かせください。
宝地戸氏:一貫して求めているのは、当社の事業そのものに強い関心を持ち、共感していただけることです。
言葉にすると当然のように感じるかもしれませんが、業務内容やポジションに興味があり、実績やスキルに問題がなくても、当社の理念や戦略には関心がない、という人材と出会うことも少なくありません。当社のエグゼクティブ人材採用では、そこがマッチングの肝だと考えています。
部門トップの人材を外部から招聘するにあたり、既存人材との融合の観点でどのような工夫をされましたか。
宝地戸氏:外部からエグゼクティブ人材を迎え入れることによって、社内で変化への戸惑いが生じることもありました。
例えば、数年前に実施したエンゲージメントサーベイでは従来よりも良くない結果が出ました。戦略転換による一時的な業績低迷の影響に加え、多くの人材を外部から迎え入れたことで自身の業務への不安を感じた社員もいたのではないかと思います。
組織開発においては、きちんと時間をかけて、当社として大切にすることを社員に共有し、また自律的に大きな業務に挑戦できる風土を醸成することが大切だと思います。そこで「リーダー人財育成セッション」という当社の考え方を共有する研修を開始したり、社員の内発的な動機付けを促進する制度を多く整えたりしました。こうした施策によって、今では組織風土が大きく変わってきたと感じています。

社長をはじめ経営陣も選考プロセスに関わり、「深い議論」が生まれることも
エグゼクティブ人材の選考プロセスは、メンバー・管理職層の採用とは異なる部分もあるのでしょうか。
宝地戸氏:エグゼクティブ人材については通常のエントリールートだけでなく、パーソルキャリア エグゼクティブエージェントさんなど、お世話になっているエージェント担当者から社長をはじめとした経営陣に、直接人材をご紹介いただくこともあります。ポジションによって、一般公募では伝えることのできない情報やニュアンスもありますから。これは信頼できる人材紹介サービスとのパートナーシップがあってこそ実現できる方法だと思います。
人材紹介サービスの中には、マッチング度合いにかかわらず、とにかく多くの候補者を紹介してくださるケースもあります。しかし、エグゼクティブ層になると、同じようなやり方ではうまくいきません。人材紹介サービス側でも当社の事業課題を深く理解した上で、「これは」と思う候補者をご紹介していただくようにお願いしています。
エグゼクティブ人材採用では、人事だけでなく経営陣の方々も選考プロセスに関わっているのですか。
宝地戸氏:経営陣も積極的に選考プロセスに関わり、当社の戦略や事業課題などについて説明しています。
豊富な経験や深い知見をお持ちの候補者ほど、面談後にさらに情報を求めて「再面談」を希望されるケースが多くあります。中には面談で非常に鋭い質問を頂戴し、社内でも気付かなかった論点に触れられたこともあります。こうしたプロセスも、候補者との相互理解を深める上で大切にしています。
1人の候補者に経営陣が複数回会うことも珍しくありません。エグゼクティブ層の候補者は他社からも声がかかっている可能性があるため、経営陣もコミットしなければならないと考えています。
「良い質問」を投げかけてくれる人材紹介サービス担当者は、採用を超えた経営パートナー
人の介在がより一層重要となるエグゼクティブ人材採用では、人材紹介サービス担当者との信頼関係構築も大切だと思います。「信頼できる人材紹介サービス担当者」をどのように見極めていますか。
宝地戸氏:深い信頼関係に基づくパートナーシップを構築するためには、まず私たちから当社の経営課題や事業課題を率直にお伝えして、人材紹介サービス側ではそれを的確に解釈していただくことが重要だと考えています。
その点において、パーソルキャリア エグゼクティブエージェントの皆さんが私たちに投げかける「質問の“質の高さ” 」は素晴らしいと思っています。

当社の事業や戦略に関心を持ち、深い質問を投げかけるというのは、簡単なことではありません。エグゼクティブ層を専門とする人材紹介サービスはたくさんありますが、これができる担当者は案外少ないのではないでしょうか。
良い質問をたくさん投げかけていただけることで、私たちも経営や事業戦略、展望を深く語ることができ、結果的に候補者にも伝わります。
また、私たちにとっては貴重な内省の機会でもあります。質問されることによって、自分の中で「相手が何を知りたいのか」「どんな答えが必要なのか」を考え、思考を整理して回答する。こうした自らの内省を深められるプロセスは貴重だと感じています。私たちは普段質問される側ではなく、発信する側に徹することが多いです。だからこそ良い質問を投げかけてくれる人材紹介サービス担当者との対話は、採用パートナーとしての関わりを超えた、経営パートナーとしての価値も持つのだと思います。
今後も当社は非連続的な成長を続けていきたいと考えています。経営戦略を支えてくれるパートナーとして、引き続きパーソルキャリア エグゼクティブエージェントの皆さんに期待しています。